1.弱層テストをする
雪山でおこる雪崩事故のほとんどは、積雪内の弱い層の上につもった雪が崩れる表層雪崩によるものだ。
この弱い層が弱層(厚さ数ミリから数センチほどの崩れやすい雪の層のこと)と呼ばれるもので、
つまり登山者の登下降や山スキーヤーの滑降などの刺激を受けて弱層が破壊される事によって、
弱層の上に積載している雪が崩落して表層雪崩がおきるというわけだ。
そこで雪崩の危険度を判断するには弱層の有無を調べれば良いわけで、その方法が次に紹介する弱層テストだ。
弱層テストは、斜面が変わる度に行わなければ意味がないので、面倒でもマメに行う癖をつけよう。
1)斜面の雪面に手で直径30cm程度の円を描き、両手で雪をかき出しながら高さ20~30cmの円柱を掘り出す。
2)円柱の上部を両手で抱えるようにして手前に引っ張る。
3)1)2)の作業を繰り返し、抱える位置を順次下にずらしながら引っ張っていく。
最終的には深さ70cmくらいまで観察する。
4)軽く引っ張るだけで円盤がはがれたら雪崩誘発の危険大。
5)薄い円盤が何枚もはがれても雪崩誘発の危険あり。
2.大量降雪があったときには行動しない
一度に大量の降雪があると弱層の上に積もる雪も当然厚くなり、その分荷重も増す。
特に急な斜面の場合、弱層は支持力を失いやすくなり、雪崩が発生する危険も非常に高くなる。
また新雪そのもの自体も結合力が弱く危険なので、激しい降雪中やその直後に行動するのは、出来るだけ避けたいものだ。
また、山行日の2~3日前までの間にドカ雪が降ったかどうかもチェックしたい。
もしドカ雪が降っていれば、積雪の状態が不安定になっていると考えられるので、計画の変更または中止を検討すべきだ。
一つの目安として、一晩に30cm以上の降雪があったら要注意と心得よう。
ただし、上部に傾斜が急で広い斜面があるときは、10cmの積雪でも注意しなければならない。
3.気温の変化に要注意
厳冬期の積雪の状況は気温の変化によって安定したり不安定になったりする。
ことに気を付けたいのが、気温が急激に上昇または下降したときだ。
気温の変化は、積雪内部に大きな温度差を生じさせ、しばしば「しもざらめ雪」(弱層になる雪質の一種)を形成させる。
また、春先の急激な気温の上昇と降雨は「濡れざらめ雪」(これも弱層になる雪質の一種)を作りだし、
湿雪雪崩を起こしやすい。
このように気温の急激な変化や降雨がみられたときは十分に注意し、
必ず弱層テストを行ったうえて、どう行動するかを決定しよう。
なお、気温や降雨についても、その2~3日前にさかのぼってチェックすると変化の推移がわかり、判断も的確さを増していく。
4.雪崩の危険地帯には近づかない
雪崩は斜面につもった雪が重力によって滑り落ちる現象であるから、 原則的には斜面が急になればなるほど雪崩の危険度も高くなっていく。 (もっとも、垂直に近いような斜面では雪が積もらずに流れ落ちて行ってしまう。
逆に安全そうな緩斜面で雪崩が起きる事もある。) とりわけ、大きな雪崩の約9割は、35から45度の急斜面で発生している。
また、樹林帯のなかに一部分だけ木の生えていない斜面があったら、そこは雪崩が頻繁に起こっているとみていい。 そのほか、障害物のない広大な斜面、沢筋やルンゼ、雪庇の下側なども雪崩の危険地帯。
これらの場所には近づかないようにすることだ。
5.斜面の中の狭い範囲に荷重刺激を与えない
間隔を開けずに数珠繋ぎになって斜面を登る、ひとかたまりになって斜面を滑降する、
休憩するために斜面の1カ所に何人も集まる(2~3人でも雪崩発生の事例がある)など、
斜面のごく狭い範囲に荷重を集中させることによって雪崩は起こりやすくなる。
斜面を登る時はなるべく間隔を開けて行動し、出来るだけすみやかに尾根筋に抜けられるコースをとるようにしよう。
狭い斜面を通過しなければならない場合は、何人もが同時に侵入せず、ひとりづつ通過することだ。
6.行動時にはなるべく転んだりもがかない
斜面で行動しているときは、なるべく大きな動きや転倒などないように心がけよう。
スキーで転倒したり、雪の中でもがいたりするのは、積雪に大きな刺激を与える事になり、
弱層を破壊して雪崩を誘発する危険を増大させる。
そう言う意味では、雪崩の危険が予想されるコースには、技術の未熟な者を連れていかないほうが無難といえよう。
7.斜面のトラバースはひとりずつ
ラッセルやスキーでの斜面のトラバースは、微妙なバランスで保たれている斜面の積雪に切れ目を入れる行為であり、
雪崩を誘発する原因になりやすい。
まして何人もが一斉にトラバースしたり、間隔を開けずに一列になって滑降したりするのは、
斜面に大きな負荷をかける事になり、大変危険だ。
また、斜面の上下で並走するかたちになるトラバースも、両者の間の雪を雪崩させる要因となるので、行ってはならない。
トラバースする時は、必ず1人ずつ行う事だ。
8.吹き溜まりには踏み込まない
風下側の斜面や窪んだ斜面に出来る吹き溜まりでは、短期間のうちに大量の雪が弱層の上に積載するため、
雪崩の危険が非常に多い。
特にテントを張ったり雪洞を掘ったりするときには、風が直接あたらない稜線の風下側が選ばれるが、
そこが吹き溜まりになっていると、荷重刺激によって雪面が足下からいっきに破壊する事も起きている。
幕営地や雪洞を掘る場所の選定には十分な注意が必要だ。
また、吹き溜まりは、稜線を越えてくる風が沢の源頭部に作り出すものばかりでなく、横風によって尾根の片側や沢筋にも出来る。
滑降時にその吹き溜まりに踏み込んでしまえば雪崩を誘発する事にもなりかねないので、
ルートファインディングはくれぐれも慎重に行いたい。
9.雪崩ビーコン・スコップ・ゾンデは必携
雪山での行動者は、雪崩ビーコン・スコップ・ゾンデのセルフレスキュー3点セットを必ず個人装備に加えなければならない。
雪崩ビーコンは小型の電波発信&受信機で、雪崩に巻き込まれた人の埋没地点を特定するのに威力を発揮する。
ゾンデは雪面に突き刺しながら埋没者を検索する長い棒状の物。スコップは埋没者を掘り出す時に必要となる。
雪崩による埋没者は、15分以内に発見・救助出来れば生存の可能性が高いとされているが、
この3つが揃っていなければ迅速なレスキューは望むべくもない。
ただし、雪崩ビーコンはただ持っているだけでは何の役にもたたないので、
購入したら講習会などに参加して使用法をしっかりマスターしておきたい。
10.雪崩にまきこまれてもあきらめない
もし雪崩に遭遇してしまったら、滑降中であればとにかく転ばないようにして雪崩の本流から遠ざかる方向に逃げる事。
たとえ転んでしまって雪崩に巻き込まれた場合でも、あきらめてはいけない。
雪の中を泳ぐようなつもりで、必死にもがきながら浮上する努力を続ける事だ。
岩や樹木などの障害物が目に入ったら、なるべくそちらの方向へ身体をずらし、つかまれる物があればしがみつこう。
ただ無抵抗に流されていたのでは、デブリの深い所に埋まってしまうことになる。
また、流されている時は大声を出して、仲間に自分の位置を知らせるようにつとめよう。
最後にどうしてもダメと思ったら、呼吸空間を確保するために、鼻や口に雪が詰まらないように両手で顔を覆うことだ。
文章及び図は、山と渓谷社「ROCK&SNOW」98年秋冬号より転載した。
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